せまい脳内行ったり来たり/放浪編

もはや主にTwitterのまとめだったのに、2018年9月で途絶えている…。

時代を先取りというか

 オーケン江戸川乱歩を語る「知るを楽しむ」も三回目。今回は「押し絵と旅する男」と「蟲」を取り上げていました。
 読んだことがある!と断言できる乱歩の作品が学校の図書館にあった「少年探偵団」シリーズと「蜘蛛男」や「黒蜥蜴」などの明智ものくらいの私は、大人向きの猟奇色の強い作品は未読ばっかりです。「押し絵と旅する男」も「蟲」も概要は知ってるけど現物を読んだことがない。でも、かじったくらいとはいえ乱歩の作品を読んでいると傾向はなんとなくわかるもので、オーケンのいかにも好きなものを語るうれしそうな口調を楽しんで見られました。
 なんとゆーか。「押し絵」とか「蟲」とかって、リアル女性を含む世界とうまく折り合っていけない引きこもりーな男性の話で、内容的に全然古びてないのがなんとも。むしろ今読んで「あああー」と思う人がけっこういるんじゃないだろうか。
 押し絵の中の女に恋をして、押し絵の世界に入り込んでしまう男。しかし、押し絵の女は年を取らないのに、自分は一人で老いていく。幼なじみの女優に恋したものの、アプローチ方法が全くわからない人付き合いの苦手な男。花を渡そうにも口もきけず顔も見られず、女優には馬鹿にされるばかり。気持ちの伝えようもなく煮詰まった男は思いあまって女優を殺してしまう。物言わぬ女優の死体を土蔵に運び込み、あざけられることもなく彼女を側に置けることに大満足する男だが、やがて死体は腐っていく。
 一時的に閉鎖ワールドでパラダイスを手に入れる主人公たち。でも、物語の終わりで彼らのパラダイスはあっけなく失われてしまう。乱歩自身はやはり人付き合いが苦手で人形などへの偏愛も強く、この主人公たちの感覚に近かったみたいなんだけど、そういうキャラクタへの共感だけじゃなく最後にオトしてしまうシニカルさが乱歩のバランス感覚なのかもな、と思ったり。

 「excite Books」で連載している「非モテの文化誌」を読んでいても、リアル異性やリアル社会とうまくやっていけなくてヒッキー傾向になったりリアル異性を逆恨みしたりする心理を活写した作品が昔からいっぱいあるみたいなのです。ヲタで非モテって別に昨日今日発生したわけじゃないのに、なんで昨今になってこんなにマイナスに注目されるようになってしまったんでしょうか。
 いいじゃん、昔から一定量、そういう人はいるんだし。個性の時代とか言ってるんだから、みんながみんなつきあい上手やモテを目指さなくてもかまわないのでは。
 つきあいスキルが低いのが原因と思われる事件が目につくのが、きっとマズいんですよね…。
 せっかくそういう題材の本が乱歩と言わずたくさんあるのだし、読書とか映画鑑賞とかで「あー、自分だけじゃないんだ」体験して昇華できないものでしょうか。私もたぶん、乱歩や澁澤龍彦なんかをチラ読みして「こういうこと考えて、それを公にしてる人がいるんだー」ともやもやに形を与えてもらった気がするし。