せまい脳内行ったり来たり/放浪編

もはや主にTwitterのまとめだったのに、2018年9月で途絶えている…。

連休中だということを失念

 「それだと予算的にねえ」「手配、どうする?」「で、なんとなく寒いなって思ってるときに目が合ったら、黙ってエアコン低めの設定に切り替えてくれたの。そういうのっていいと思わない?」
 朝のマクドナルドは大学生の皆さんがいっぱいです。学祭の打ち合せやらのろけ話やらが満載です。一人でもそもそマックグリドルなど食べていると、別に聞き耳立ててなくても皆さんの話し声が聞こえてきますがな。すいません。
 そんな旅立ちの朝。オンライン&カード払いで航空機のチケットを買うと現物がないまま空港へ行くので、なんとなく不安でたまりません。もし日付を間違えていたら! カード通したとたん、そんな注文受け付けてないよと蹴られたら! という悪夢が何度も脳裏をよぎります。根っから粗忽な私なので、事前に確認メールが来ても自分が信用できない…。
 もちろん空港ではすらっと搭乗手続きが通って無事機上の人となれました。いつかこの不安になれるときが来るのかしら。
 空港からは泊まり先やお出かけ先へのハブ化する新宿へ向かい、取りあえず泊まり荷物をコインロッカーに押し込んでやれ! と思っていたのですが。あれだけたくさんコインロッカーがある新宿だってのに(中央口と南口を歩き倒した)、もちろん全面的に空きなし。そう、今日が休日、それも連休中日だということをすっかり忘れきってました…。このところ平日に上京することが多く、わりとすらっと空きロッカーを見つけられてたから、甘く見てたんだよな。
 この後行く予定の場所が5時閉館。だというのに、時刻はすでに二時を大きく回って三時近いという非常事態に、仕方なく重い荷物を抱えたまま根津へと向かいました。昼食、どうしようと考えもしたけど、なんとなくお腹空かないし、夕食はいつもより早めに取る予定だし、とぶっち。機内で出たドリンク以来、水気も取らずに黙々と坂道を歩いて弥生美術館に到着しました。ここがある意味、今回の上京最大の目的というかイベントというか(<いや、明日の方がメインじゃなかったのかよ、自分)、この時期に東京に行くことにしてよかったな、いやっほーい! の武部本一郎展の会場なのであります。

 武部本一郎。私にとって特別な位置付けの画家です。特に子ども時代に読んだ本の挿し絵の印象がひたすら強く、武部さんの書く女性は私のあこがれでありました。
 中でも光瀬龍の「暁はただ銀色」に出てくる理香さんときた日にゃあ! 古いジュブナイルなので最後に読んだのはそーとー昔で、話もうろ覚えなんですが、主人公の少年はクラスメートの美少女が、実は地球人でもないのに侵略者を排するために命を賭して戦う存在だと知り、自分も共に戦おうと決意するのですね。<いきなり話のネタ割ってますね。<たぶん、1960年代のジュブナイルを今から初読って人はいないと思うのよ…。
 この彼の決意がですね! 儚くも美しい武部さんの描く理香さんを見れば、あたり前であろうと! 及ばずながらもこの人の力になりたいと願う彼の気持ちがひしひしとわかるというか、ここで奮起しなきゃ男じゃねーだろーというか。
 …このころからすでに、私は脳内に男の子を飼っていた模様。
 と、物語に対する強烈な説得力の源となっていたのが武部さんの挿し絵なのでした。
 その武部さんの生絵が見られるとなれば、泊まり荷物がぎっしり詰まったバッグも重くない、と思いたい。思いたいけど、会場でこの荷物に足を取られ続けるのは悲しい。ダメもとで受付で「コインロッカーありませんか?」と訊ねたら、「こちらで預かりますよ」と言ってくださいました。よかった、これで心置きなく絵を見て回れる…(涙)。
 おかげさまでわたくし、あのデジャー・ソリスの原画の前を何度往復できたことか。そう、あの、創元の、火星シリーズのデジャー・ソリスの生絵を拝むことができたのです。私の中の、半裸の美姫の原形!<どんな原形。ううう、東京来てよかったよぅ。
 他にも火星シリーズ・金星シリーズ・ターザン・ペルシダーの文庫表紙の原画、挿し絵、SFマガジンなどに掲載されたペン画等々、垂涎の美麗な絵の数々がてんこ盛りです。少し憂いのある、品のよい姫君。凛々しさと華麗さを合わせ持つ女戦士。中性的な色香のある少年。(ちゃんと屈強の戦士もいるんですが)これを眼福と呼ばずしてなんとしましょう。ああ、足がもっと丈夫だったら閉館まで粘ったのにー。
 一堂に会したイラスト群を見て改めて思ったのは、記憶にあったより女性の皆さんの露出が多い。そもそもの衣服の布が少なく、捕らわれの姫君なんて展開の話についてる挿し絵だから捕縛されてる構図も多くて、びみょーにえろーい(笑)。清楚な顔立ちに肉づきのよい肢体、なやましいポーズの娘さんが満載で、ヘタなグラビアよりもどきどきものですよ! きっと当時の青少年たちはイケナイ気持ちを刺激されまくったことでしょう。
 図録があればなーと思ったのですが、小さな美術館だからか残念ながらオリジナルのものはなく。ああ、これを機会に一年くらい前に出た簡易装丁版のイラスト集を思い切って買おうかしら、うううー。

 会場は一階が子ども向きの小説や絵本の挿し絵、二階がSF系の画業をまとめてあり、一階では「この本、家にあったわ」「なつかしいねえ」と語り合うご夫婦などのほほ笑ましい姿が見られました。二階はもちろん、30後半オーバー? のSFヲオーラの出まくった男性がたくさん。古い文庫の初版本の展示品に加藤直之さんの所有物が多いのを「なるほどー」と眺めたり、晩年のジークフリード像の大判絵が中島梓所有となってるのに「なにー」と目をむいたり、非常に気持ち悪いお客さんになってました。
 福岡にも来ないかなあ…。<無理。