せまい脳内行ったり来たり/放浪編

もはや主にTwitterのまとめだったのに、2018年9月で途絶えている…。

地獄ボタンが透けて見えました

ゼロの焦点 (新潮文庫)

 「深海のYrr」の終わりが見えてきていたので、「BOOK OFF」にて後がまを拾ってきました。そのうちの一冊は松本清張です。今映画をやってる「ゼロの焦点」が「点と線」に並ぶ代表作と聞いて選んでみました。
 松本清張は昔々何冊か、ミステリとして読んだ記憶があるけど、それっきりなのです。むしろ映画やドラマでなじんだ感じ。「濃ゆいっ」て印象があります。
 今月、NHKの「知る楽 こだわり人物伝」で取り上げてるのですが、なんとみうらじゅんが清張を語る回があったので見まして。
 おもしろい。視点が。というので、俄然清張読んでみたくなりまして。
 こつこつ地道にやってきた人が安泰を手に入れてふと立ち止まったとき、人生の地獄ボタンが見える。清張の作品って、それを押しちゃった人の話なんだ、みたいなことを言ってました。守るものができたが故に足を踏み外していく、みたいな。だから、歳とって読むと全然見え方が違う。ああ、オレの前にもボタンがあるよ、押しちゃったよ、って瞬間があるからぞっとする。
 みうらさんによると、清張はホラー小説なんだそうです。

 「ゼロの焦点」の冒頭10ページくらいを読んでみました。
 …こえー。清張こえー、まぢこえー。
 ヒロイン(映画では広末がやってる)が見合いでかなり年上の男と結婚して、新婚旅行に行って、二日めにそこの名所を回ろうと車で移動してて、というあたりまで読んだんですが、このヒロインの心情が! さして面識のない男と見合いで夫婦になっていく過程の心理がひーっていうほどリアルで怖かった。おっさん、なんでこのワクワクではないなりゆきと弛みで夫婦ができていく過程がこんなにわかるのよっ、みたいな。
 若いときは好き好きでらぶらぶで大盛り上がりっな恋愛とか結婚しか見えないわけですが、年取るとそれ以外の心境や関係も見えてきます。ちょっとした倦怠とか妥協とか、日常のなれ合いが作る関係性。理想より必要を選んで生きてったりとか。それはまー、人間毎日をドラマティックに過ごすのはしんどいので、必要なダレだと思うのです。
 この辺は十代ではとても読み取れない。清張、大人になって読まないとわからんところがたくさんあるな。
 時代とか価値観とか、書かれた頃とは変わったこともずいぶんあるけど、それでも共感できるところってあるものです。国民的作家と言われるのもむべなるかな。