せまい脳内行ったり来たり/放浪編

もはや主にTwitterのまとめだったのに、2018年9月で途絶えている…。

婚活女子は「ゼロの焦点」を読むといいと思うよ

 通勤時間限定で「ゼロの焦点」を絶賛読書中。ミステリをこんなぶつ切りで読んで大丈夫なのか>自分。(通勤時間は正味で10分程度)
 とりあえず今のところ事態はちゃんと把握できてるけど、風呂敷畳みに入ったらまとめて家で読むと思われ。<をいをい。
 それにしても、未だにドラマ原作として採用され、そのドラマがそこそこの視聴率を上げる松本清張。真っ当に読んだのはもしかしたら初めてかもだけど、しみじみそれも当然かもなあと思う。原作がしっかりしてるから、派生物もそれなりの出来になるんだろう。なんちゅーか、人の描かれ方がすごいリアル。昔、古典な感じのパズラー系ミステリをまとめて読んだ時期があったけど、小説としての満足度とは別に女性の描写が今ひとつ類型的だなあと感じたりして、その点はちょっと食い足りなかった。「ゼロの焦点」はなんたって昭和30年代前半に書かれた小説なんで今時感覚とはずいぶん違う部分もあるけど、ときどきヒロインのカンの働き方や気持ちの揺れに「ああ、わかるわかる」と思わされるとこがあって、そこがおもしろいしちょっと怖い。当然ながら女性の本質は50年100年で変わるものではないから、そこをちゃんと押さえてあれば古い小説でもけっこういける。とはいえ、書いてるのは50才近いおっさんなわけで、それでこれかい! と思うと怖い。

 「ゼロの焦点」のヒロインの禎子さんは26才のOL。会社ではきれいに分類される方で好きになった人の一人や二人はいたけど成就に至らず、タイミングなのか今までお断りしていた見合いをそのときはなんとなく受ける気になって36才の鵜原憲一と結婚する。鵜原と結婚前に会ったのは見合いの席くらいで結婚式を迎え、だから真っ当に話を交わしたのは新婚旅行のときになって。前歴や趣味、人柄もろくにわからないけど、これからおいおいこの人と夫婦になって行くんだろうなと納得している。しかし、そんな夫は結婚一週間で前任地の引き継ぎをするために出張に出たまま行方不明に。彼の細かな生活を知らない禎子さんは失踪の原因が全く思いつかず、彼を探して前任地の金沢を旅することになる。
 今20才前後の娘さんが聞いたら「をいをい?」ってな結婚だけども、当時はこんなのは珍しくなかったんだと思う。そうでないと、通俗的に読まれる小説として読者がついてこない。「んなわけねーだろー」な特殊なヒロインだと、読者は感情移入しにくいし。
 ヒロインは東京の人で時代背景は昭和30年代だから、地方都市ではもっと遅く、昭和40年代くらいまではこういう見合い結婚は結構あったんじゃないか? ちゅーか、知り合いの親世代では実際に聞く話だったりする。結婚するまでろくにデートもない、相手のことをよく知らないままの結婚。それでも、熟年離婚しちゃうケースもなくはないけどうまくいって穏やかな老後を送ってる夫婦も少なくない。結婚は、基本的には長いつき合いだから(離婚もあるけども)、恋人同士の数年がうまくいったからってその後が保証されるわけじゃないしね…。
 つまり婚活女性が言うところの「ふつーに暮らしていて広がる人間関係の中でいいなと思える異性に出会って、自然に結婚に至る」というふつーの結婚、ふつーのしあわせなんてものは昔もなかっただろうと。「なぜ他の人、親世代は手に入れられた普通の結婚ができないの?」って、それはないものだから手に入らないのです。

 作中ヒロインは美人として書かれていて、途中思いを寄せて彼女に協力してくれる人なんかも出てくる。行方不明になったダンナは、だから妻となった女性の容貌の点では大満足で見合いを受けたのかも、と物語的には腑に落ちるけど、現実のろくに会わないまま結婚では見栄えも問わず、誠実だとかよく働くだとか子どもをたくさん産めそうな身体つきだとか育ちがしっかりしてるだとか、お互いそのくらいで納得して成立した見合いもたくさんあった模様。
 よく今時男性は婚活女性を条件多いとかワガママとか身のほど知れ、みたいなことをネットで毒吐きしてるけど、当時の男性も今のあなた方に比べると全然条件ユルかったわけで、お互いさまだと思います。