せまい脳内行ったり来たり/放浪編

もはや主にTwitterのまとめだったのに、2018年9月で途絶えている…。

「司政官」、読了

司政官 全短編 (創元SF文庫)

 あんだけいろいろ言いましたが(笑)、二ヶ月かけてほぼ通勤時間のみで読み切りました。
 読み終えて思いましたが、この本、読み出しがつらくてしんどかったのは収録一話目が「長い暁」だからなんじゃないかと。今までにシリーズを何話か読んでた人ならすっと世界観に入っていけるんでしょうが、初読の私には司政官としての訓練を積んだせいで感情の起伏に乏しい主人公(司政官は感情的であってはならない)、制度の初期でたいした権限もないために淡々と事態にあたるしかないしかない立場、などのシリーズのポジション的な関係で話に入りにくくてならず、「これは読み通せないかもしれん…」と弱音を吐く羽目になった気がします。事件はあるけど盛り上がらん、というか。その後、「照り返しの丘」を越え、「炎と花びら」のあたりでなんとか世界観に同調できて、後半は結構おもしろく読めました。
 話的には全然「おもしろい」というタイプの内容じゃないけど。
 これはなんというか、切ない話です。官僚的制度という「理想」という言葉とはどうにもなじみ悪げなものの中にあって、現住生命体と植民者の間に立って「植民世界の発展と先住種族との融和を図りつつ(wikiより引用)」惑星統治を進めるためのプロフェッショナルとして育成された司政官たち。という設定がもう、初手から主人公たちに矛盾と破綻を約束しているわけで。彼ら個人個人は優秀でまじめで「司政官」という役職に理想を持っているし、その立場を得るまでに長い研修と厳しい選抜を乗り越えても来ている。それだけに、初期は導入されたばかりの制度故に任務を遂行しようにも現地を統括している軍隊に軽んじられ、地球人類とは全く違う現住生命体との融和しようもない生命体としてのあり方と葛藤し、やがては自由と権利を主張する植民者や現住民族といつまでも既得権益を離したくない中央機構との間で板挟みになり権威を失墜していく彼らの日々は、なんともやるせなくて切ないばかりなんである。
 「長い暁」の、司政官としてできること、やるべきことが見えていながらも、実績のないポジション故に一歩引いた立場で事態にあたるしかないじれったさ。
 「照り返しの丘」の、滅びた知的生命体の残した機械たちと自分の部下であるはずのロボットたちが築いていく信頼関係の中で感じる疎外感。任地を転々とする司政官としての限界。
 「炎と花びら」の、どれほど共感を持とうとも、結局は人類とは違う異星の生命体との間に横たわる越えようもなく分かち合いようもない感覚や価値観への諦念。
 「遥かなる真昼」の、植民者と現住生命体との間の軋轢に苦慮と、劣悪な任地の環境の中で見出した現住種族との交流を失って味わう挫折感。
 「遺跡の風」では、すでに司政官は権威を失いつつあり、中央省庁からその仕事ぶりをチェックする巡察官なるものを派遣される身の上になっている。司政官候補生としてやってきた人材の劣悪ぶりを嘆くことにも。
 そして、「限界のヤヌス」では、ついに植民者にも現住生命体にも反旗を翻されてしまう司政官。その渦中にあっても、彼は司政官としての立場を貫こうとして…。
 ホントに最後まで報われないというか、たいへんなばっかりで達成感とか自分の選んだ仕事での満足感とかあるのかなあ…、と心配になる主人公たち。こんなに一生懸命仕事してるのに。てゆーか、このシリーズは仕事してる人の方がしみじみと読める感じがします。学生だと彼らの悲哀は今ひとつ共感しづらいかも。仕事ってのは、才能あっても偉くても真摯に取り組むと難題満載だよなあ。(という点では、ラノベとかとは対極に位置する小説かもしらん。表立った恋愛もほぼないし)
 読み始めの印象からは大きく変わって好感度が上がった本なんですが、この先に続くシリーズの大長編二作を読みたいかと言うと。うーん…。だって、もうこの先、司政官たちにはいいことは一つも起きないんですよ、どう考えても。その立場故の苦悩とか権威失墜した官僚だからこその仕事ぶりとかが読みどころなのかもですが、なにせ長い。つらくしんどいのがわかっていてそれに手を出すには、おばさん、根性が無くなりました。すまぬ…。